なぜ大阪のストリートはワールドクラスなのか!? ハートビートプラン 泉英明×Magnet.Inc 佐藤勇介 対談

2022/03/24


住民の要望と街のビジョンを近づけないと、継続しない


佐藤
:マグネットの佐藤です。よろしくお願いします。泉さんは大阪在住ですよね。実は僕も本社は大阪にあって、10年間くらい大阪で働いていた期間があります。大阪での仕事だと、関西テレビのロゴや梅田の「ぴちょんくん」の看板は弊社で作りました。最近では東京都のパラスポーツ推進や、宮城県亘理町の文化発信プロジェクトなども手掛けています。泉さんはどのようなお仕事をされているんですか?


:ハートビートプランという会社で、さまざまな都市計画プロジェクトを手がけています。都市計画には市民、行政、交通、商業施設などいろんな関係者が関わってきますよね。各自どう事業を展開して、どうすればエリアの価値を高めていけるかをプランニングしています。

具体例を挙げると、「水都大阪」という事業で2011~2016年の6年間、プロデューサーを務めました。大阪ではなんば、西梅田、大東市morineki、大阪以外だと愛知県豊田市の「あそべるとよたプロジェクト」や岡崎市乙川、山口県の長門湯本温泉地再生、姫路大手前通りなどのまちを再生していくプロジェクトも手がけています。


「水都大阪」の様子

佐藤:都市計画の仕事は、何から始めるのでしょうか?

:まずは、個々の人達に「何をやりたいですか?」「この街やエリアをどうしたいですか?」と聞くことから始めています。最終的に街をつくるのは地元企業や市民です。その人たちがやりたいことと街のビジョンを近づけていかないと、継続しないし面白くありません。

もちろん、街の人が思っていることをそのまま実現するのがいいかどうかは、まちの文脈やメカニズム、時代の大きな流れなどから精査する必要があります。僕からも「このエリアだと○○が重要じゃないか」という話はしますよ。ただその前に、街の人たちがどんなことをしたいのか、その想いを聞いてかなえていくプロセスがないと、提案が生きませんから。

佐藤:街の人の要望を聞いて打ち合わせを重ねながら、泉さんが見える化していくわけですね。

「みんなのために」ではなく「自分たちのために」が基本

 

佐藤:泉さんは「なんばひろば改造計画」に深く関わっていますよね? 経緯を詳しく教えてください。

:なんばひろばは、真ん中にタクシープールと道路があって、周辺に南海電車のターミナルや高島屋・丸井があります。ここをホコ天にしたい、と地元の商店街が言いはじめたのが2008年です。その後2011年に町会と商店街と企業、27団体が協議会を立ち上げて、将来ビジョン作りからはじめました。

当初、大阪市は「この広場は整備済みだから、改造する必要はない」という姿勢だったんです。そこで地元発のビジョンを大阪市に提案して、2015年に行政も加わり、2016年に社会実験の第1弾を行いました。でも、おおむね形が出来たタイミングで、警察協議によりNGが出てしまいました。「人が道路を渡るから危険だ。全部防護柵で覆いなさい」と指摘を受けたのです。

当時、対案を出せるだけのデータがなく、行政や警察に任せていては進まないなと思い、自分たちで交通の流れや荷捌きの調査をし始めました。シミュレーションを作って、「これなら交通再編と荷捌きの再配置ができるんじゃないか」というプランを提案をして、ようやく形になりました。

佐藤:市や警察に「できない」と言われていることに対して、ちゃんとシミュレーションを行い、様々なハードルをクリアしていくことで「無理じゃないでしょう?」と突き付けたのですね。

:そうです。この時点では地元と大阪市が一体となって取り組みました。当初は駅前広場だけを考えていたんですが、一般車や貨物車、タクシー、バスなど駅周辺に影響するすべての交通再編をやることになったので、大変でしたね。ホコ天化に伴う荷捌きの影響を受ける方々の登記簿を調べ、土地建物の所有者や店舗に1件ずつ合意を取っていきました。

いまの協議会メンバーは、地元の商店街、南海電鉄や高島屋など民間企業、町会です。僕ら専門家や行政もガッツリ関わっていて、相当いいタッグができていますね。交通やランドスケープ、夜間照明などの設計コンサルタントとも連携して事業を進めているので、将来広場を運営する覚悟のあるメンバーの意向が反映されたデザインになっています。

佐藤:そうだったのですね。「広場にイスとテーブルを置けば成立できる」くらいに軽く考えちゃいましたが、実は裏側で相当細かい作業や連携が行われているんですね。


社会実験「なんばひろば改造計画2021」の様子

:先日行ったなんばひろば改造計画2021では、広場の滞留空間づくりに対する労力は5~10%ぐらいで、90~95%は交通や荷捌きがきちんと安全に回るかどうか、それらの地元合意形成、行政や警察との協議ですよ。

佐藤:南海電鉄や高島屋などの民間企業なども関わり、労力が大きいと思うのですが、広場ができるとそれなりに経済効果が大きいと考えているのでしょうか?

:そうですね。南海電鉄は沿線が人口減少しているので、「いろんな人に来てもらうエリアへ変革しないと、自分たちの商売が将来立ち行かなくなるのでは」という危機感があるでしょう。商店街や商業施設の皆さんも都市間競争やエリア間競争に負けたらあかんという危機感があります。そしてホコ天化の効果もみなさん世界で遊んでいるだけに肌感覚で認識されてます。やっぱり自分の商売のためですよ。「みんなのために」ではなく「俺が楽しむ」「私が儲ける」が基本なので(笑)。

佐藤:「自分たちの商売のために」と断言できちゃうのが良いですよね。東京だとなかなか言えないかもしれません(笑)。

「万博までに」という締め切りを目指して

 

佐藤:国交省の方々や道路の専門家の方たちとの打ち合わせでは、「ストリートの使い方は西高東低、特に大阪はワールドクラスだ」という話を聞きます。その理由はなぜだと思いますか?

:大阪は商人の街なので、自分たちで街をつくる意識が強いのかもしれませんね。いい意味で、行政にあまり期待していない。一方で行政にも「やってみたらええやん」という感覚はあります。

佐藤:あくまで民間企業や市民が主導なんですね。自分たちで公共空間を変えていこうとする原動力って、どこにあるのでしょうか?

:自分たちが楽しもう、というのと、もう一つは危機感だと思います。企業の本社が東京へ移転するなど、大阪の地盤沈下が激しい。「このままで大丈夫か」「魅力的な街にするために、何かしなきゃいけない」と切羽詰まっている部分もあるのではないでしょうか。

「水都大阪」も、そういう危機感からのスタートです。建物を造っても東京に勝てるはずがないし、それで都市が豊かになるわけでもない。でもパブリックスペースを変えれば、都市のイメージが上がるし、人の動きも変わります。投資効果が良いと気づき始めたのです。

佐藤:2025年には大阪・関西万博がありますよね。そこを目指して大阪の街を変えていく動きはあるのでしょうか

:万博の開催地は大阪湾の夢洲(ゆめしま)という島で、大阪の中心部からはちょっと遠いんですね。そのなかで御堂筋やなんばエリアでは何ができるか、来た人にどうやって楽しんでもらえるか、を考えているところです。なにより「万博までに」という期限が設定できたのが大きい。万博がなかったら、あと10年は延びていたかもしれません(笑)。

佐藤:いい意味で「締め切り」ができた、と。

:もちろん、どう使うかは僕らもちゃんと考えなければいけません。期間限定で、御堂筋からなんば広場まで歩行者天国にする、とか。万博を理由にうまく実験をやっていけばいいんです。「難しいと思っていたけど、実はできる」というデータを取っていく。ファンを増やしていく。そのきっかけとして、万博はすごく良いチャンスですよね。

 

個々の妄想やエンジンを全体化する「プランニングの民主化」

 

佐藤:東京で「ほこみち」に関わっている人たちも、「本当は大阪みたいに進めたい」と強く思っているはずです。日本のストリートで新たなムーブメントを起こすためには、何が必要なのでしょうか?

:民間サイドが「自分たちでやろう」というマインドを持っているかどうか、が大きいですよね。「行政から言われたから、活用しなきゃいけない」となると、進みにくい。そこは、街が持っている気風もあるかもしれません。

佐藤:大阪の人たちはオープンだし、何でも言っちゃう気質が影響しているのかも、と思いました。

:会議を毎週やっていますが、同じ企業でもバラバラなことを言いますからね。普通だったら上司に忖度するような場面でも、「僕はこう思う」と発言する。行政に媚びるわけでもないし、行政も地域に忖度しません。常に本音トーク。そういう意味では分かりやすいですね。

佐藤:忖度しないって、かなり大事な気がします。

:「ほこみち」は道路空間だけでなく、民間の敷地や建物の1階まで関係する話ですよね。行政と民間の意識を融合させて進めていかないと、魅力的なストリートにはならないでしょう。

僕が一番大切だと思っているのは、個々の妄想やエンジンです。「そんなことできない」「個人的な趣味だろう」と切り捨てることは簡単だけど、面白いことにみんなが乗っかってくれない街って、つまらないですよね。

従来は、「街はこうあるべきだ」というマスタープランからスタートします。それを逆転させて、個々の妄想やエンジンをどう全体化するか、という発想で進める。個々の遊びや好奇心から始めて、現場や世間にうまく適用させれば、それが社会の価値になります。僕はそれを「プランニングの民主化」と言っていて。個人の想いを全体に適用していく方法やプロセスを開発しています。

佐藤:「プランニングの民主化」って、素晴らしいですね。僕は最近DX関連の仕事が増えているんですが、DXの良いところって「参加の民主化」だと思っていて。デジタルを使うことで、その場に行かなくても申請できるし、手間やコストが削減されます。

あと、昔は「上が決めて下が従う」流れだったけど、これからは個人の意見を集約して物事を変えていくべきで。DXでやらなきゃいけないことって、そこなんじゃないか、と。

:その通りですね。自治体の運営も、DXを導入することで同一大量供給じゃないものができるはずです。

佐藤:プロダクトにしろサービスにしろ、個人にとってどれだけ特別なものになれるか、が一番大事で。個人が考えたことを公共空間にプランニングして、みんなが参加して街が変わっていけば、愛着が生まれますよね。

:自分事になりますからね。個人の妄想を汲み取って、全体で応援できるようにすることが重要です。そのためにも、そういう役割を担う人がもっと増えていけば、ストリートの活用も広がっていくのではないでしょうか。