「こどもまんなかみちづくり」へ!みちの在り方を変える視点とは ― ほこみちインスパイアフォーラム2023 ― 

2024/02/07

「道はもっとカラフルでいい!」をテーマに、2023年11月30日(木)に開催された「ほこみちインスパイアフォーラム2023 ~みち活新世紀“みち”から始まるまちづくり~」。 

今回の記事では「こどもまんなかみちづくり」をテーマに行われたセッションの内容から、これからのみちづくりに求められる新たな視点をお届けします。 

〈登壇者〉 

・山下 裕子さん / 広場ニスト 

・三浦 詩乃さん / ストリートライフ・メイカーズ 代表理事 

・安藤 哲也さん / コミュニティデザインラボmachi-ku 代表、柏アーバンデザインセンター(UDC2)副センター長 

・梶原 ちえみさん / 国土交通省総合政策局 社会資本整備政策課 

・三谷 繭子さん / ほこみちプロジェクトディレクター、株式会社Groove Designs 

「なぜいま、こどもまんなかみちづくり」?  

「こどもを見守る社会の力をアップデートする こどもまんなかみちづくり」というテーマを掲げた今回のセッション。「こども」と「みち」と聞くと、従来の考え方では相性が悪いと感じる方も多いかもしれません。 

しかし、「こどもまんなか​​」というキーワードから多くの皆さんが想起されるように、2023年4月にこども家庭庁も設立され、全ての人がこどもや子育て中の方々を応援するといった社会全体の意識改革が行われています。 

みち活を含むまちづくりにおいても、それは同様です。同年6月に政府から出された「こども未来戦略方針​​​​」では、まちづくりについて下記のように謳われています。 

“こどものための近隣地域の生活空間を形成する「こどもまんなかまちづくり」を加速化し、こどもの遊び場確保や、親同士・地域住民との交流機会を生み出す空間を創出する” 

(政府方針について説明する国土交通省総合政策局 社会資本整備政策課 梶原 ちえみさん) 

同年7月に閣議決定された国土形成計画においても「他世代が交流するコミュニティ空間の創出」、「ほこみち普及による居心地が良く歩きたくなるまちづくりの推進」といったキーワードが入っています。 

道路空間は「安全」や「経済発展」といった従来大切にしている視点に加え、その存在意義に対する考え方が大きく変わりつつあるのです。 

「ゆっくり進む」がもたらす、こどもたちへの効果 

パネリストセッションでは「こどもまんなかみちづくり」を目指すために「みちを◯◯から◯◯へ」というお題を設定。ゲストスピーカーとしてお越しいただいた山下さん、三浦さん、安藤さんが​​それぞれの考える、これからのみちのあり方を紐解いていきました。 

その中で見えてきたことの1つが、「スピードが緩やかになることで起こる変化」です。 

「最速移動から立ちどまりたくなる場所へ​​」と語ってくださったのは、広場ニストの山下 裕子さん。日頃から仕事で全国各地のまちを歩く機会の多い山下さんは、スマートフォンに目を落とし、横断歩道を渡り損ねるひとを見かけることが増えたことから、実は急ぐ必要がないひとが増えているのではと考察。 

ゆっくりと歩く中で、まちのひと同士でのコミュニケーションが増えるだけでなく、「自分たちの速度が遅くなると、目に入るものが増えて、優しくなれるのでは。」という、こどもたちにとって大切な「見守り」にもつながるコメントがありました。 

(スピードに着目したトークを展開した山下さんと三浦さん) 

歩行者目線で「スピード」に着目した山下さんに続き、次はドライバー目線での「スピード」に着目したトークを展開してくれたのは、ストリートライフ・メイカーズ 代表理事の三浦 詩乃さんです。 

三浦さんが掲げたのは、「メーターからコミュニケーションへ」。 

三浦さんの研究テーマのひとつに、「スローストリート​​​」があります。ヨーロッパではエリアを設定し、その中では車の速度も含めて時速30km以内にする取り組みを行うまちが50都市ほどあるのだそうです。それも、人が自然に集まって井戸端会議をはじめられるような裏路地だけでなく、都心環状のような幹線道路でも同様に速度制限しているケースがあるのだとか。 

(歩行者中心のみちも、幹線道路も、エリア内を時速30kmに制限している) 

このような取り組みで気になることの1つは、「渋滞」です。ベルギーの事例では、目立った渋滞は起きておらず、速度がゆっくりになっても通過所要時間が変わらないというデータも出ていると言います。 

スピードを出す車の多い車線道路では車線変更による割り込み、誰かのブレーキが渋滞の原因になりがちです。一方で、ゆっくりと走行することで自然に周囲との「コミュニケーション」が生まれるそう。 

「ドライバーがメーターを見てイライラするといった世界観から、もう少しまちを見る、歩行者の方と目線が合って気持ちよくドライブできるというような世界観に変化したら、こどもたちも安心して生きていける世の中になると思います」と三浦さん。 

いかに速く・効率的に車や人を流すかといった従来の発想に囚われない、ゆっくり進む・コミュニケーションが生まれる新たな道路空間の在り方が、こどもたちにとっても居心地の良い場所になる大切な要素の1つと言えそうです。 

こどもが育つ「関係性」が生まれるみちを目指して 

「みちを未知からキチへ」というキーワードで語ってくれたは、コミュニティデザインラボ machi-ku 代表 / 柏アーバンデザインセンター 副センター長の安藤 哲也さんです。 

安藤さんのトークから見えてきたのは、みちで育まれる「関係性」という視点です。 

今回安藤さんが紹介してくれたのは、柏アーバンデザインセンターで取り組む「ストリートパーティー​​」。週1回歩行者天国​​になる柏市のメイン通りで、多世代が遊びを通じて交流する取り組みで、2017年のスタート以来、16回ほど行ってきました。(2023年11月時点) 

これまで、道路で優先すべきことは「安全」の文脈で語られることが多かったですが、「安全とは物理的に守られている環境で、安心とは心理的に守られている環境。個人としては安心をより大切にしたい」と、安藤さんは語ります。 

(ストリートパーティー​​で常連の参加者の方が駒まわしを教えている様子。ここでしか生まれない「関係性」が芽生えています。) 

その背景にあるのは、誰しもが通る・生活上必須のものであるというみちの特性です。それらを踏まえた、こどもたちの社会との接点・関係性からの学びの可能性があるといいます。 

「普段通るみちが遊び場となり、自然な形でつながる大人が増えることで、こどもを大人が評価するのではなく、純粋に認めてあげられる関係性が生まれます。そうなることで、こどもたちの心が発達すると思うんです。みちでの体験を通じて、こどもたちにとっての未知が『既知』へ、そして心の『安全基地』へ。この2つの『キチ』への変化が生まれますよね。​​」と、安藤さん。 

使い方によって、みちの役割が大きく変わる。こどもが育つ「関係性」が生まれるみちづくりは、これからさらに増えていくみち活に期待したい、大切な視点となりそうです。 

さいごに 

道路のかたち自体を変えていくのではなく、在り方を変えていく。 

それを通じて、周りのひとたちの意識も変わっていく。​​ 

「こどもまんなかみちづくり」は、そんな変化から一歩ずつ実現していくことが大切であると、セッションに参加いただいた皆さんのトークから、改めて私たちも感じました。 

そして今回のほこみちフォーラムでは、「こどもまんなか」を体現するため、イベントにこどもがいても安心して参加できる環境づくりにも挑戦しました。 

登壇者の三浦さんは、お子さんと一緒に舞台にあがってトークをしてくれました。こども連れで公の場で仕事をすることも、そのうちに当たり前になる日がくるかもしれません。その環境をつくる側・受け入れる側のスタンスによって、場のあり方は変わり、多様な人が受け入れ輝ける社会が実現できるでしょう。

少しずつ、今までの「当たり前」を変えていくことで、「こどもまんなか」で、多くの皆さんが安心して過ごせる社会になるように、引き続きみち活を推進していきます! 

記事でご紹介しきれなかった、より詳しいトーク内容は、下記アーカイブ動画よりご覧いただけます。ぜひ、皆さんのまちでのほこみち検討・実践にお役立てください!