ほこみち活用の起爆剤として全国初の歩道上コンテナハウス設置に取り組む〜ほこみち第一号指定を受けた神戸三宮中央通りの現在地

2024/07/17

1995年の阪神・淡路大震災から四半世紀が経った神戸市では、2015年9 月、神戸の都心の未来の姿「将来ビジョン」、三宮周辺地区の「再整備基本構想」等を策定。「人が主役のまち」「居心地の良いまち」をテーマに、都心・三宮再整備事業を進めています。

都心・三宮エリアの主要な歩行者動線である神戸市中央区の三宮中央通りは、神戸三宮(フラワーロード)と元町(鯉川筋)を東西に結ぶ延長約500mの通り。2021年2月12日、大阪市・御堂筋、姫路市・大手前通りと共に、全国初のほこみちに指定されました。

三宮中央通りでのほこみち制度の活用は、三宮中央通りまちづくり協議会の若手メンバーが中心となり、オープンカフェくつろぎエリア、イベント活用エリア、コンテナハウス・multi-BASE賑わいエリアの3種類にゾーニングし、歩行者の多様な楽しみ方を提案するなど、にぎわい・憩いあふれる道路空間を創造しています。KOBEパークレットなど、これまでも先進的な取り組みを行い注目を浴びてきた三宮中央通り。

本記事では、三宮中央通りまちづくり協議会・企画部メンバーの永田泰資さん(永田良介商店6代目店主)に、ほこみち制度導入にいたった経緯や、歩道上にmulti-base(コンテナ)を設置するまでの紆余曲折などを伺いました

聞き手:ほこみちプロジェクト事務局

-まずは、ほこみち制度導入にいたった経緯をお聞かせください。

はじめに三宮中央通りの成り立ちをご説明します。三宮中央通りは、2001年、神戸市営地下鉄海岸線の開通とともに誕生し、元の道路「三宮裏線」から、車道を減らし歩道を拡大するなどの街路整備がなされました。「三宮中央通り」という名称は実は公募によるものなんです。

三宮中央通りまちづくり協議会(以下、まちづくり協議会)は、沿道の景観維持活動のほかに、2004年からは、春と秋にオープンカフェ社会実験を始めました。2016年には全国初の事例となるKOBE パークレット 設置、地下駐車場の出入口へのアプローチとなる半地下構造の空間を活かしたまちなか広場「三宮プラッツ」等、道路空間を利活用した先進的な取り組みを行ってきました。

コロナ禍の2020年には、コロナ占用特例(新型コロナウイルス感染症の影響を受ける飲食店等を支援するために執った沿道飲食店等の路上利用の占用許可基準を緩和する特例措置)を導入。春と秋の季節限定だったオープンカフェを通年で行うことができるようになりました。

そして、三宮中央通りのさらなる発展のため、ほこみち制度を導入しました。導入の理由は3つ。まずは①コロナ占用特例で可能になったオープンカフェの通年開催を続けていくため。②屋外空間の活用は今後、世界的にも大きなトレンドになっていくであろうことを見据え、なるべく早く着手することで推進を図る目的。そして、③神戸市が推し進めている都心・三宮の再整備「三宮クロススクエア 」に対応するためです。

「三宮クロススクエア」とは、三宮駅周辺に現在10車線ある周辺道路を段階的に削減し、最終的には人と公共交通優先の空間を整備していく計画で、三宮中央通りから三宮駅に向かう左折道路2車線は将来的に必要なくなることが分かりました。そうなると歩道の拡張と活用は必須課題となりますので、そのきっかけとして、ほこみちは最適だと判断しました。

事例がないことに取り組む苦労はあるだろうと思いましたが、その分、ノウハウが増えていくことも事実なので、チャレンジしていこうという思いですね。

三宮クロススクエア将来イメージ/神戸市HPより

-オープンカフェの常設化に関しては、沿道のショップからの希望があったのでしょうか。

そういう意見も多少ありましたが、どちらかというと、まちづくり協議会から働きかけました。冬はどうしても利用者が少ないので、利益を見込んでの常設化というより、常設化することによって「あそこに休憩所がある」という認知度が上がると思ったからです。

-ほこみち指定を受けてから、「三宮プラッツ」などでのイベントは増えましたか?

そうですね、少しずつではありますが、増えてきています。ほこみちの活用法としてジャズライブを開催したのですが、まずはやってみた、というところでしょうか。

今後は、「三宮クロススクエア」を見越して、神戸市の道路課とも相談しながら、車道側を使ってのイベントができないか、模索中です。

「三宮プラッツ」は神戸市の所有で、運営は市の指定管理を受けた企業が行っており、まちづくり協議会はイベントの企画を担っています。

コウベ*オールザッツジャズの様子/三宮中央通りまちづくり協議会HPより

-ほこみち活用の中でも最も注力したのが、コンテナハウス「multi-BASE」設置に向けた取り組みだとお聞きしました。

はい。multi-BASEは、三宮中央通りの中でも特に人通りの多い(1週間の人通り16万人超)大丸神戸店前の五差路・HITODE 交差点に設置しています。この場所に、誰でも気軽に借りられて、様々な⽤途で利⽤できるコンテナハウスを設置することは、長期的な賑わいづくりに大いに役立つと考えました。

multi-BASEは、ポップアップストア、イベントスペース、マルシェ、ラジオ放送、社会実験などさまざまな用途に使っていただけます。電気と水道が通っているので、飲食店の出店も可能です。

またmulti-BASEのレンタル料がまちづくり協議会の貴重な収入となるのも大きな利点です。三宮中央通りにはアーケードがないので出店者からの維持管理費の徴収がなく、収入は加盟商店街からの分担金のみです。

三宮中央通りまちづくり協議会は発足以来20年以上、テナントの色や屋外広告物の規制、植栽の管理などの景観管理を主な活動として行ってきましたが、地元にいるまちづくりプレイヤーが減少してきていることからも、やはり、通りの維持管理にはある程度のお金が必要なんですよね。

我々のような商店主が自主的に自分の店の前を掃除したり、植栽を管理してきたことで通りの景観が維持できていたのですが、だんだんと大家業にシフトする方が増え、また大手企業のテナントが増えてくると、自分事としてまちづくりに参加する人はやはり減ってきています。そうなると掃除や植栽管理にもお金がかかってくるのです。

そういう面でもほこみちは、マネタイズのきっかけになりましたし、また、通り自体のポテンシャルの高さに気づくきっかけにもなりました。

-multi-BASEは、ほこみち導入後すぐに構想し、整備までに3年かかったそうですね。そのプロセスを教えてください。

まずはコンテナを設置する費用が必要なので、神戸市の方と相談して、商業流通課の3年型助成金の認定を受けました。

2001年の三宮中央通り再整備以来、協議会の会合には神戸市の道路課と景観政策課の担当者がずっと出席してくれています。行政と良好な関係が築けているので、ほこみちの指定もmulti-BASE設置に関しても、我々としてはハードルが低く取り組むことができました。

3年型助成金は、1年目に計画、2年目に設置、3年目に運用、の3年計画を立てて申請したのですが、3年目にようやく完成したというような状況でした。

苦労したのは、なんといっても道路上に建物を建てるという施工例が極端に少ないこと。そして、確認申請をしようにも申請地の地番がないこともネックになりました。

そして水道と電気。宅地内に引き込むことを前提としているので、道路上に引き込むにはその部分にも道路占用許可申請をかけなければならず、それらの調整にも苦労しました。

また、設置場所の真下にガスの本管が通っているので、緊急のガス管工事が発生した際には、1日以内にコンテナを撤去しなくてはなりません。基礎は打っているものの、基礎の上に金具で建物を連結させることで撤去可能な仕様にすることで解決しました。

ガス工事に限らずたくさんの「万一」の想定をクリアしていく必要がありました。

さらに警察との調整・許可も必要です。細かな指摘があったのは、信号位置との関係性。設置場所である大丸神戸店前の五差路・HITODE 交差点は中州のようになっているのですが、交差点前の信号とその次の信号まできっちり見える位置に設置するように、との指導がありました。それをクリアするための位置確定にも時間がかかりましたね。

―道路上であるがゆえに、たくさんのハードルを乗り越えてようやく設置に至ったのですね。実際にmulti-BASE運用が始まってからの手ごたえはいかがですか?

9月の第一弾の活用は神戸牛の皮アップサイクルし素材から製品まで様々な展開をしているブランド「KOBE LEATHER」のポップアップストアです。次に11月から12月にかけてJリーグのヴィッセル神戸が出展した際は、優勝前は店舗内に順位表を貼りだし、応援メッセージが書ける仕様にしました。優勝後は優勝ビジュアル看板を設置し、店舗内では名シーンの写真展示などを行っていました。

基本的には物販が多いですが、飲食店の出店も実現しています。

自身の店も出店していたり、私の他にも協議会メンバーが実際に使って申請関係を自分たちで行うことで、より使いやすい利用規約にアップデートしています。

-multi-BASEに出店するにはどのような申請が必要なのでしょうか。

道路占用許可は三宮中央通りまちづくり協議会ですでに取っていますが、道路使用許可は出店者が変わるごとに、各自で兵庫県警に申請してもらうようにしています。

飲食店の場合は道路使用許可に加えて、臨時の営業許可申請を神戸市に出してもらう必要があります。

まだ事例はありませんが、お酒を販売する際は、期限付酒類小売業免許を所轄の税務署に申請する必要があります。

-ほこみち指定から約3年。最後に、今後の課題を教えてください。

やはり手続きの複雑さの解消ですね。ほこみち指定エリアを使用するには、神戸市に占用料を支払う必要がありますが、占用する物に応じて占用エリアが決まり、そのエリアごとに占用料を計算しなくてはいけません。例えばオープンカフェのテーブルセットを2個置くのであれば、そのテーブルセットを置くエリアを決め、その面積に応じて占用料を支払う、ということです。

現在は、まちづくり協議会が窓口となって占用料をとりまとめ一括して神戸市にお支払いしています。このような手続きが必要なので、「明日やりたい」にはお応えできないのが現状です。もう少しスムーズな運用の仕方を考える必要があると思っています。

マルチベースは7月現在で、本格的に稼働させた昨年10月から約10ヶ月間の間稼働率80%ぐらいで推移しています。 物販、飲食、イベント告知、サンプリングなど様々な用途で使ってもらえています。これからもぜひ様々な方に活用していただきたいですね!

-今後の三宮中央通りの進化を楽しみにしています!ありがとうございました。