秋らしい澄んだ空気が気持ちのいい2022年10月19日、ほこみち事務局とUDC2のコラボ開催による「オープンストリート柏会議」がスタートしました。会場は、千葉県の柏駅東口ウッドデッキ。1973年に完成した日本初のペデストリアンデッキ、通称「ダブルデッキ」の1階に2012年に整備されたイベントスペースです。
柏では以前から、地元の商店会や、「公・民・学」連携の課題解決型まちづくり拠点である柏アーバンデザインセンター(UDC2)などを中心に、道路空間を使ったイベントなどの社会実験が活発に展開されています。
会場には地元にお住まいの皆さんはもちろん、「柏の動きに注目している」という遠方からの方も多数参加!
誰でも立ち寄りやすい駅前デッキで、通りすがりに足を止めて会議を見学する人も。
まず、ほこみち事務局のメンバーである国土交通省の柴山慶行さんが、「ほこみちマインドトーク」と題し、ほこみちを含む最近の道路の変化について紹介しました。
2020年11月25日に道路法などが改正され、新たに「歩行者利便増進道路(ほこみち)」制度が創設されてから2年弱。「今年8月の時点で、すでに31の自治体や地方整備局の管理する82路線が、ほこみちに指定されました」と柴山さん。
指定されたエリアでは、ベンチを置くなど道路空間の占用がしやすくなり、その期間も以前の最長5年間から20年間へ延長されました。オープンカフェやデジタルサイネージによる映像表現など、道路上に人がくつろげる場所がどんどん増えているのです。
ほこみち事務局からのメッセージとして「みちは人やクルマが通るだけの空間ではありません。創造力が通る、未来へつながる可能性の生まれる空間です。みんなでワクワクする未来のみちを考えてみませんか?」と締めくくりました。
続いて、ほこみち事務局による「インスパイアトーク」。司会のほこみちプロジェクトディレクター三谷繭子さんが「みちが変わると、私たちの日常・まちはどうなる??」をテーマにプレゼンを行いました。
私生活では双子のお子さんの母でもある三谷さんは、「子どもの手を引いたり、ベビーカーを押したりして通るときに歩道が狭く感じることもあるので、道路が人中心になり、子ども連れでも安全で楽しく過ごせる未来が欲しい、と常々思っています」と生活者の視点で感じていることを語りました。
近年、道路空間でチャレンジングな活用が進められる実験などを紹介しながら、「ほこみちは制度であって、ある意味でツール。私たちがどう使いこなすかにかかっています」と会場に呼びかけました。
例えばアメリカのフィラデルフィアでは、アイスクリーム店が歩道にテレビを置き、その前に椅子を並べています。子どもたちはアイスを買ってもらい、椅子に座って食べながらテレビを見ているのです。日によって、大人向けのライブなども開催しており、道路をうまく使って心地よい空間を創出していました。
また、ポートランドでは歩道と駐車場を連携させてオープンカフェを開いていたり、ニューヨークでもクルマを通行止めにしたスペースをサイクルポートに転用していたり。「こうした取り組みは、日本でもほこみち制度を使ってできると思います」と語りました。
ほこみちの始め方は、このホームページで詳しくお知らせしています。また、みちを楽しくする活動をしているみなさんが自由にダウンロードして使っていただけるイラストの紹介もありました。
ここからは、柏で実際にみちを使って先端的な取り組みをしている3人の方に、その内容を紹介していただきました。
トップバッターは、UDC2の副センター長、安藤哲也さん。テーマは「柏セントラルの道路事情とUDC2の取り組み紹介」。JR柏駅を中心として東西に広がる柏セントラル地区は、駅から放射状に延びる道路がいずれも狭く、半径500m圏に公園や広場が一つもありません。一方で、駅前のダブルデッキ、ウッドデッキは都市再生特別措置法に基づく道路占用許可の特例制度が適用され、広告やオープンカフェ、購買施設の設置が一定の条件下で可能となっています。
柏駅前は再開発によって一気に商業都市になりましたが、それから約半世紀がたち、ここ15年ほどは商業の売上が下降ぎみ。大型商業施設であったそごう柏店も閉店してしまいました。そんな中、柏の持つポテンシャルを生かせば再浮上できるはず、ということで組織されたのが、行政や地元、大学などからなるUDC2です。「私たちは20年後の将来像であるグランドデザインを描き、その実現に向けてさまざまな取り組みをしています。更新期を迎える柏セントラルのバイブルとして使われるものを目指しました」(安藤さん)。
UDC2のグランドデザインのポイントは、「商業都市から融合都市への転換」。さまざまな世代やまちの機能、空間を融合(ミックス)することで、ひびきあうカラフルな希望の花を咲かせよう、というコンセプトです。
UDC2の取り組み例として、安藤さんは2017年に実施した社会実験「ストリートパーティー」の様子を報告しました。「歩行者天国に子どもの居場所をつくれないかと提案しましたが、その時は『駅前に子どもなど集まらないだろう』と言われていました。でも、やってみたら1000人を超える親子が集まるようになりました。道路活用は、とにかくやってみることが大切だと思います」(安藤さん)。
また、ペデストリアンデッキに人工芝のスペースを設けたところ、イベントや物販がなくてもたくさんの人が利用するようになったといいます。「売上が発生しなくても、人々が楽しそうに過ごしている風景が、まちの中には必要です」(安藤さん)。
さらに安藤さんは、今後の課題として「道路と民地との連携」を挙げました。道路空間を人中心にするときは、同時に店舗前の敷地にオープンカフェを出すなど、一緒に盛り上げる工夫をすると効果が高まる、というわけです。安藤さんは「ワクワクする道、つまり『ワク道』は、ほこみちに何かをプラスすることでできるのだと思います。『何か』には、あそびやおしゃれ、経済などさまざまなキーワードを入れられるでしょう」と締めくくりました。
次は、ウラカシ百年会事務局長のコスキマー菜緒さんです。ウラカシは「裏の柏」という意味。“表”にあたる駅周辺の百貨店エリアから少し歩いた路地裏などに、個性的なショップが点在するエリアを指すのだそうです。「ウラカシ百年会は、通り沿いではなくエリア型の商店会です。名前には、100年続く商店会をつくろうという想いを込めました」とコスキマーさんは話します。
コスキマーさんは、道路を活用したイベントとして、ハウディモール(駅前通り)の歩行者天国やペデストリアンデッキで古着販売と飲食を出店した例、猛禽類と触れ合える「ウラカシ動物園」の取り組みなどを紹介。
「イベントを開催する上で困っているのは、道路を使うための手続きが複雑でとても大変なことです」とコスキマーさん。「道路が使えることも知らない人が多いし、どうやったら使えるのかもみなさんわかっていません。私自身、手順がわからず、準備を進めていたイベントが他の団体のイベントとダブルブッキングしてしまい、開催できなくなったこともあります」。
1回のイベントを行うために道路、警察、保健所との協議が大変で、かなりの時間と労力がかかる経験をしたというコスキマーさん。「同じ書類を何カ所にも提出しなければなりません。ワンストップで申請ができるようになれば、道路はもっと活用しやすくなると思います。道路を使いたいと思ったら誰でも使えるまちになってほしい」と語りました。
次に、あさひ通り商店会会長の長一江さんが、取り組みを紹介しました。あさひ通りは、柏駅の西口に位置します。長さんたち西口の5つの商店会では、「スポーツタウン柏」というテーマでまちづくりをしています。
西口では、年に2日間の「柏まつり」以外では道路が車両通行止めにできず、イベントには使いにくかったといいます。その状況が変わったのは、ラグビーワールドカップが日本で開催された2019年。柏市がニュージーランド代表の最強軍団、オールブラックスのキャンプ地になったことがきっかけでした。
「オールブラックスも来るのだし、ストリートラグビーをあさひ通りでやりたい!と思い立ちましたが、どうしたらいいのかわかりません。市役所に相談に行き、まちづくり補助金のプログラムに挑戦することを勧められて。中心市街地整備課とUDC2を紹介してもらい、実現に向けて動き出しました」(長さん)。
その過程では、コスキマーさんと同様、警察協議などで苦労したものの、無事に開催にこぎつけました。翌年からはコロナ禍の影響でストリートラグビーが開催できなくなりましたが、UDC2の安藤さんからの提案で、「ストリートテラス」を実施。
ストリートテラスは、国土交通省が2020年6月から11月に、コロナ禍の影響を受ける飲食店支援のために実施した緊急措置として、テラス席などの路上営業を占用料免除で認めたもの。「飲食店が多数を占めるあさひ通りにはぴったりのアイデアでした。『西口の私たちだからできる取り組み』を発見していくことが大事だと気づきました」(長さん)。
ほこみち制度に対しては、「道路の幅があまり広くない道路でも、週末だけほこみちにするなど、柔軟な対応を検討してもらえたら」との希望も。「イベントが終わったら必ず全員でゴミ拾いをしています。小さいときにゴミを拾った子は、大人になってもゴミを捨てません。まちづくりは人づくり。それが国づくりにもつながるのだと私は思います」という長さんの発言が印象的でした。
会場の参加者からは「柏市は新しい取り組みをいろいろやっていてすごいけれど、それ以上に人がすごい。みなさんの話を聞いてワクワクしたし、自分たちもがんばりたいと思いました。そういう気持ちを持たせてくれる人が柏市にたくさんいることに感動しました」などの声が上がりました。
最後に、ほこみち事務局の柴山さん、山名さん、三谷さんとUDC2センター長で東京大学大学院教授の出口敦さんに会場を交えて、「アイデアトーク」!
まず山名さんが「柏のまちづくりを担っている最前線に女性が二人もいることが素晴らしい。可能性を感じる」とエールを送りました。
柴山さんは「行政手続きが大変、という話がありました。これから変えていかなければと思っています」と話しました。
出口さんは「ほこみちのホームページで、行政手続きのQ&A集を充実させていただくといいかもしれません。警察協議はこうするとスムーズにいく、といったノウハウをみんなで共有できれば」と話します。「日本の道路は海外に比べてとても安全ですが、それは警察や道路管理者が守ってくれているからです。それを理解したうえで、イベントを開催するときに、どんな調整をすればどこまでできるのか、事前に判断材料があるといいですね」という具体的な提案もありました。
「再開発から50年たって新しいまちづくりにチャレンジしている柏は、全国の最先端ですね」と山名さん。これを受けて出口さんは「柏を皮切りに首都圏で次々に再開発が行われたので、柏が新しい取り組みで成功を収めると、今後は他のまちがどんどん追随していくでしょう。その意味で、柏はリーディングシティーになるはずです」と語りました。
飛び入りで参加した「茨城のフリーザ」さんは、毎週2回、柏駅前のゴミ拾いボランティアをしているといいます。「ほどよく目立つコスプレ姿でゴミ拾いをすることで、ゴミを捨てる人を減らしたい。まちがきれいで平和になると、どれだけいいかを伝えられれば」と思いを述べました。
山名さんは「夜のまちを安全で魅力的にすることは、ナイト・エコノミーの観点からも課題になっています。それが実現すれば、夜も公共空間の価値が高まるはず」と話しました。コスキマーさんもプレゼンの中で、「若者が寄りかかれないように道路の壁面のデザインを変えるのではなく、ルールを守らない人には住人同士で声を掛け合う関係性が重要なのではないでしょうか」と発言していました。
三谷さんは、先ほど紹介したフィラデルフィアのアイスクリーム店の例を挙げ、「あそこでは、たまたま集まった人同士がとても和やかに交流していました。ストリートをうまく使うと、自然にそうした空気が出てきます。柏のみなさんの話を聞き、これからさらにそういう場の力を作り上げていかれるのだろうな、と感じました」と述べました。
時間とともに気温はかなり下がっていましたが、会場に集まった人たちの心にはほっこりと暖かいものが宿ったようでした。
ほこみち事務局が、次はあなたのまちへ? 地域から、ほこみちムーブメントを一緒につくっていくオープンストリート会議は、まだまだ続きます!